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東京国立近代美術館のデザイン作品のコレクションを一挙に公開!「デザインの(居)場所」展レポート
こんにちは、箱庭編集部 moです。
本日は東京国立近代美術館 工芸館で5月21日(火)〜開催中の「デザインの(居)場所」展をレポートしたいと思います。
移転前に必見!
東京国立近代美術館 工芸館の所蔵品約120点を紹介するコレクション展
本展は、東京国立近代美術館 工芸館が所蔵するデザインコレクションを一挙に見られる展覧会です。
現在は皇居近くの北の丸公園にある東京国立近代美術館 工芸館ですが、2020年には石川県金沢市へと移転することが決まっています。つまり本展は東京で所蔵コレクションを見られる貴重な機会なんです。
陶磁、ガラス、漆工、木工、竹工、染織、人形、金工など、多くの近現代の工芸作品を主に展示紹介してきた東京国立近代美術館 工芸館ですが、その所蔵コレクションには多くのデザイン作品も存在しています。
1988年にインダストリアルデザイナーの先駆者と呼ばれるクリストファー・ドレッサーやアール・デコ様式の家具デザインで知られるピエール・シャローなどの作品が収蔵され、現在では、工業デザイン192点、グラフィックデザイン776点を収蔵しているそう。
本展では、工芸館の選りすぐりのデザイン作品と、工芸作品を合わせた約120点を通して、デザインの(居)場所はどこ?という問いに対する答えを国境、領域、時間という3つの視点から考えていく内容となっています。
まず、会場に入る前に入り口に置いてある解説をぜひ手に取ってみてください。新聞のようなデザインが素敵で、本展の展示の解説が詳しく載っています。これを片手に展示を見ていくと、より一層理解が深まり、内容を楽しめますよ。
国境
展示は“国境”の部屋から始まります。国のアイデンティティを表象するものだったデザインが、近代化が進むにつれ国境を越えた普遍的なデザインの考え方や、素材の使い方で国の違いも見ることができる作品など、主題が国境を想起させる作品が展示されています。
19世紀にイギリスで活躍したデザイナー クリストファー・ドレッサー氏の展示では、産業革命による機械生産と手作業の融合による製品をはじめ、ゴシックやバロックといった過去の様式や、中東やアジアの様式をも掛け合わせたデザイン製品が並びます。まさに国境を超えた“折衷主義”のデザインではないでしょうか。
ポスターの展示も印象的です。“陸海空、どこから越える?”といったテーマにもあるように、20世紀に入り、人々が国境を超え世界への行き来が活発になった時代の、鉄道、船、飛行機など交通に関するポスターです。
ポスターのデザインも素敵ですが、描写されている旅客機や豪華客船などにも注目です。当時のアール・デコ様式の機械美や芸術性の高い装飾など、現代に通ずる造形の美しさに驚かされます。
“ローカライズされたデザイン”というテーマでは、それぞれの国ごとにライフスタイルに合わせてデザインされたチェアやワゴンなどが並びます。
たとえば、こちらの柳宗理氏の《バタフライ・スツール》。アメリカのデザイナー、チャールズ&レイ・イームズ氏を訪ねた際、イームズ夫妻が手がけた合板製の補装具に衝撃を受け、帰国後合板を使った《バタフライ・スツール》を生み出したのだとか。その際、和室で使うことを想定し畳に接する箇所は平らに切り取ったデザインにしたそう。
今まであまり考えたことがなかったけど、こうしてアイデアや技術は国境を越え、行き来し、新しいデザインや価値が次々生まれて来たんだなぁと改めて感じる内容でした。
領域
続いては“領域”の展示。
デザインの分野は、明確に定義をするのが非常に困難です。機能の有無、クライアントの有無など、人によって捉え方が異なるデザインや、手仕事と機械生産、一品制作と大量生産など、しばしば比較される製品の展示などから、私たち自身でその“領域”を考える内容となっています。
こちらの2点はグラフィックデザイナーの田中一光氏の作品です。
左が「グラフィックアート」で、右が「グラフィックデザイン」だそうですが、みなさんは違いが分かりますか?田中氏自身は、機能や目的をもたないものを「グラフィックアート」と呼んで制作しているそうですが、一見しただけでは判断が難しい領域ではないでしょうか?
イサム・ノグチ氏の《あかり》は、従来の「彫刻」の領域に捉われることなく制作した、照明の役割のある彫刻です。住環境のための「彫刻」を通じて、芸術と人々と社会のあいだの橋渡しをしようと考えたのだとか。
“人間国宝とデザイナーによる日常の器”では、重要無形文化財保持者にも認定されている富本憲吉氏の《醤油指し》と、デザイナー・森正洋氏による定量生産の《G型しょうゆさし》が比較展示されています。どちらも素晴らしいデザインですが、お互い違った領域にあるものだということに気づかされます。工芸とデザインの関係とは?を考えさせられる、工芸館ならではの展示だと感じました。
エンツォ・マーリ氏の《SAMOSシリーズ》も必見です。マーリ氏が考えたデザインにしたがって、ひとつひとつ手作業で制作された21種類ある器が30年ぶりに一挙に並びます。
こちらは、鋳込み型で形成し量産するのが一般的な磁器を、あえて手作業で組み合わせる方法で作り出したシリーズです。大量生産へのアンチテーゼともいえるこのシリーズは、また違ったデザインの領域について考えるきっかけになるのではないでしょうか?
時間
最後の“時間”の部屋では、デザインと時間の関係性に示唆を与える作品が2つのグループに分けて展示されています。
1つ目のグループは、デザインされて以来ずっと生産、販売が続いているものです。
例えばこちらは森正洋氏がデザインした《平型めし椀》。消費者の多様な感覚に対応するため、12色の色釉を使い、様々なバリエーションが作り続けられ、今では200種類以上もの模様があるのだとか…!
2つ目のグループでは、30年前の平成元年にデザインされたポスターが並びます。これらは時間の経過とともに「告知する」という本来の役目を終えたデザインです。
どちらのグループもデザインされたものという共通点がありますが、時間軸の違いや継続性・一過性など、その役割はそれぞれ異なります。こちらの部屋では、その存在が時間と共にどう変化しているか、あるいはしていないのか、掘り下げながら考える場所となっています。
工芸館ならではの展示にも注目!
「デザインの(居)場所」展の企画はもちろんですが、東京国立近代美術館 工芸館だからこそ見られる展示にも注目です。
展示室の一角に、昭和期の建築家・谷口吉郎氏が手がけた和室の間があります。現在は梅雨の時期に合わせた潤いを感じる作品をいくつか展示しているそう。工芸館ならではの、他にはない和室の展示スペースなのでぜひ足を止めてじっくり見てみてくださいね。
また、60年以上前に東京国立近代美術館で初めて開催されたデザインの展覧会「世界のポスター展」についての小展示もあります。ポスター5点と記録資料が見られる貴重な機会ですのでこちらもお見逃しなく!
このほか、人間国宝の方による工芸品の数々を見られる展示室や、工芸館が所蔵している椅子に実際に座れるスペースもあるので、この機会に是非じっくりと感じて巡ってみてください。
いかがでしたか?
「デザインの(居)場所」というテーマに対し、国境、領域、時間という3つの視点から考えていく本展。改めて工芸やデザインの奥深さを感じ、また人それぞれ捉え方や感じ方は違っていてもいいんだと感じる展示でもありました。
展示内容はもちろん、建物や空間も素敵なので、金沢に移転する前に是非訪れていただきたいです。気になった方はお見逃しのないよう、会期中に足を運んでくださいね〜!
所蔵作品展 デザインの(居)場所
会場: 東京国立近代美術館工芸館
会期: 2019年5月21日(火)-6月30日(日)
開館時間: 10:00 – 17:00 ※入館時間は閉館30分前まで
休館日: 月曜日
観覧料: 一般250円(200円) 大学生130円(60円)
※( )内は20名以上の団体料金。いずれも消費税込。