natural cafeこひきや

消えゆく商店街だからこそ、ここでカフェを開く。店内で育まれる食と人の懐かしい空間。

子供達が笑いながら走って下校し、ご近所さん同士がお買い物ついでに立ち話。空にはどこか懐かしい万国旗がはためき、昭和レトロな商店と看板が並ぶ場所。東京都荒川区の「熊野前」駅にある商店街の風景です。
こんにちは。そんなスポットで生まれ育った戸田江美です。

この商店街には昨年末あたりから個性あふれる新しいお店が並ぶようになってきました。以前ご紹介した「nécoya BAKESTAND」さんもそのうちのひとつです。

クリエイター夫婦が営む、現代版の喫茶店

natural cafeこひきや
今回ご紹介するのは「natural café こひきや」さん。元ゲーム会社勤務の旦那さまと、美術大学で陶芸を専攻し今もご自宅に陶芸窯を持つ奥さま。クリエイターご夫婦・朝倉さんが営む「現代版の喫茶店」です。

natural cafeこひきや
入店してすぐ目に入る印象的な木は乾燥させた漆。この店舗、昔は八百屋さんが入っていました。そのため天井は高く広々とした空間です。

natural cafeこひきや
ご夫婦が自ら塗った壁、全体的に使われている古木と柔らかいフィラメントランプがリラックスできる空間を作り上げています。

natural cafeこひきや
壁を剥がして出てきた柱をそのまま使用。圧迫感を感じさせない抜け感のある仕切りになっています。
各席はゆとりがあります。ゆっくり過ごせるのはもちろん、お子さん連れが多いこの地域に合わせての計らいでもあります。
「私たちにも子供がいるので、私たち自身が使いたくなる空間にしました」と奥さまが教えてくれました。子供用椅子もトイレのオムツ台も完備。店内はベビーカーも入れるようフラットで通路が広くなっています。

natural cafeこひきや
朝倉さんがお店のコンセプトに掲げている「現代版の喫茶店」ってなんだろう、と思っていたのですがお店に行くうちに納得しました。ご近所さん同士でコーヒーを飲みにくるご年配の方々、下校する子供との待ち合わせ場所に使うお母さん、パソコンや文庫本を片手に来る若い人、小さいお子さん連れの家族。老若男女が集い、そのお客さんたちと朝倉さんご夫婦が談笑しているのをよく見かけます。
それぞれが思い思いに過ごしながらもあたたかなコミュニティを店内で築いている様子は、まさに喫茶店のイメージそのもの。それを楽しめる人が住んでいるこの地域だからこそ、そして「こひきや」だからこそ現代版・喫茶店空間ができあがっているのだと感じました。

natural cafeこひきや
私自身このお店に惹かれて通っているうちに、朝倉さんご夫婦とこの街や商店街の良さについてお話しするようになり、なんと8月から店内で私の写真展を開催していただくまでのお付き合いになりました。

戸田江美の個展「商店街のかけら」
「せっかくだからこの商店街の日常を切り取った写真を展示しよう」と話し合いスタートした戸田江美の個展「商店街のかけら」は8月17日から開催中。

natural cafeこひきや
店内に飾られている写真はすべて私の作品です。

会期:2016年8月17日〜年内終了目安
詳細、会期についてはお店のFacebookをご覧ください。

IT系企業から転身して商店街でカフェを始めたワケ

店主の朝倉さんはIT企業出身です。なぜカフェ経営を、しかもあえてこのエリアを選んだのか。その理由をうかがいました。

「僕は広告代理店やゲーム制作会社に勤めていたのですが、働いているうちにもっとお客さんの反応を直に感じられる仕事をしたい、と思うようになりました。じゃあ何がいいかな…と考えたときに“飲食店を作ろう!”と思いついたんです。」
お客さんと直に触れ合う職種は様々。その中でも「元々料理が好きだった。」という理由で飲食店経営に決めたのだとか。しかも偶然か運命なのか、幼いころの夢はコックだったそう。
しかしながら、もちろん朝倉さんは飲食系のお仕事は未経験。異業種で独立という大きな決断を潔く下したことにびっくりです。

「元々勤めていた業界の習慣もあってか、変化することが好きなんです。だから仕事を辞めてお店を持つことにもあまり恐怖はなかったかな。今も停滞しないことを意識しながらお店作りをしています。」
確かにこのお店、行くたびにメニューが増えたり、内装がちょっと変わっていたりしています。朝倉さんの想いが反映されていてのことだったのですね。

natural cafeこひきや
しかしIT系のキャリアを積んできた朝倉さんのこの決断、奥様はどう思ったのでしょうか?
「妻は飲食店で働いていた経験もあって、反対はしませんでした。この仕事、好きなんだと思います。」
私が想像していたよりもあっさりと飲食店経営の道は決まったようです。飲食店勤めの経験がある奥さまはホールをメインに担当しています。

手作りのお皿、しつらえのスペース。クリエイター女子ならではの店作り

natural cafeこひきや
お店で使用されている小皿やお醤油指しは、なんと奥さまが焼いたもの。自宅に陶芸の窯があるとのことで、そこで作られているのだそう。手作りならではの色味、形、手触りでとても素敵です。もちろん一点一点異なるので、どれもじっくり見たくなっちゃう。

natural cafeこひきや
「店内、よく見ると棚やちょっとした物を置けるようなスペースがあるでしょう?陶芸やアート作品を展示できるように内装を作ったんです。」
そのスペースに飾られたもの第1号は、いま開催中の私の個展作品です。すっかりお店に馴染んでいます。ありがたい…!

natural cafeこひきや
丼ぶりは奥さまの陶芸の師匠が作ったもの。重厚感がある見た目とは裏腹に女性も持ちやすい軽さと薄さです。滑りにくい手触りも気持ちが良い。

世界に誇る日本の食材「ダシ」を使ったメニュー

こちらでいただけるのは、化学調味料を一切使わず日本古来のダシを使ったお料理とスイーツ。お料理はうどんがメインで、毎朝市場から直接買い付けてくる食材と、わざわざ香川から購入する喉越しのいい選び抜いたこだわりの麺で作られています。
厚切り豚肩ロースの柔らかチャーシューうどん
一番人気のランチメニューは「厚切り豚肩ロースの柔らかチャーシューうどん(小鉢・香の物・ドリンク付き)」。
天然ダシを使用していて、一度食べるとその香りが忘れられないほどの深い香りと味わいのスープが楽しめます。吟味された野菜は甘みがあり、しっとり柔らかいロースはジューシー。関東風に短く切られた、つるっとした喉越しの麺はとても食べやすいです。

朝倉さんは「子供が食本来の味を知れる“食育”になるように」「子供からお年寄りまで食べられるものを」と考えてうどんをメインに料理を作っています。
日替わりメニューには「ほぐし鶏の冷やしダシ茶漬け」や「特製坦々ビビンパ丼」などのごはんものが登場することもあるそう。

冷製ラーメン
最近始めたのは「冷製ラーメン」。冷たいラーメンって初めて食べたのですが、病みつきになりそうです。細麺とちょっと辛味のあるスープが絡み合っておいしい!
うどんもラーメンも盛り沢山な具が様々な味を楽しませてくれます。

ほっとひと息おやつメニューも満載

クマっぺ
この夏から始めたオリジナルフラペチーノ「クマっぺ」。地名の「熊野前」と「フラペチーノ」を掛け合わせたネーミングです。ゆるかわいいロゴは、クリエイターの友人に描いてもらったそう。

クマっぺ
ちなみにポスターデザインは私がさせていただきました。

しつこくないけど甘さは抜群。シャリシャリした氷が清涼感を運んでくれます。テイクアウトも可能。モカ、チョコ、抹茶など7種類があります。
材料はミルク氷とキビ砂糖。ホイップは乳脂肪のみの生クリームを使用しているのでお子さんも安心です。
余計なものを一切使わない、素材のおいしさを引き立たせるのは、「こひきや」の全メニューに共通して言えること。よくある無添加食材ってちょっと味が薄かったりして満足できないこともあるのですが、朝倉さんは旨味成分を引き出して味を存分に楽しめるよう配慮しているそう。

natural café こひきや
ドリンクメニューは奥さまとアルバイトの女性がメインに考案しているのだとか。だから女子のテンションが上がるようなフラペチーノやフルーツ炭酸ドリンクが揃っているんですね。
シフォンケーキなどスイーツもあるのでゆっくりカフェタイムも楽しめます。

もう一度活気ある商店街を。お店を始めて芽生えた街への想い

朝倉さんは香川でうどんづくりを学んだ後、奥さまの地元であるこの街に来ました。そして昭和の色が残る商店街の風景に惹かれ、現在の場所にお店を出すことを決めたそうです。
natural café こひきや
「下町情緒が残るこの商店街近辺。お店を始めて分かった課題もあります。家主の高齢化が進み、だんだんとシャッターを下ろす店舗が増えているんです。このままだと商店街が無くなってしまう。30代の子育て世代がこの街に引っ越してきて人口が増えているのに、商店街を活かしきれてないんです。それを少しでも防いで、再び数十年前のような活気ある商店街にする活動ができたらと思っています。」
街に対する愛が深い朝倉さん。この場所の良さを再認識しよう、地元の住民同士で盛り上げよう、そんな想いもあって今回、私に写真展のお話をくださったそうです。街を想う人の熱意に触れて、私も改めてこの地域に埋まっている魅力探しに、写真を通して向き合うことができました。

そんな魅力的なご夫婦が営む現代版喫茶店「こひきや」さんは今日も地元の人のリラックス空間として、お腹も気持ちも満腹になる時間を提供しています。
他のカフェとはひと味違う、下町情緒を感じに来てみてはいかがですか?

    natural café こひきや

    住所:東京都荒川区東尾久5−20−15
    TEL:03-6807-7512
    営業日:火〜木 11:30〜18:00(ランチ〜14:00 / L.O.17:30)
    金・土 11:30〜21:00(ランチ〜14:00 / L.O.20:30)
    定休日:月・日・祝日
    Website:http://www.facebook.com/kohikiya/