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「笑点」制作の女性クリエイターがつくった落語を近距離で楽しむお店
平成版のお座敷遊びが叶う「落語・小料理 やきもち」。落語とご飯とお酒を味わう時間をお届け。
落語大好き戸田江美です。以前「落語カフェ」をレポートしましたが、この秋、落語デビューにうってつけのお店が東京に生まれました。
その名も「落語・小料理 やきもち」さん。JR秋葉原駅から徒歩8分ほどのところにあります。
落語を聞けるスポットがまた増えた、しかもお店をつくった人は若い女性、しかもしかも、箱庭読者さんらしい…!と聞いてワクワクしながら向かいました。
「お座敷遊びの中で落語家を呼び、お酒片手に楽しむ夜」を再現したい
このお店をつくった女将の中田さんは、ご長寿番組「笑点」の元ディレクター。割烹着姿でお出迎えしてくれる、笑顔の素敵な明るい方です。
女将:「笑点を制作していた時、出演している落語家さんたちとの距離感が近かったんです。それがとても楽しくて。そこから落語自体にハマりました。」
このお店が目指しているのは「お座敷で聞く落語」。これは春風亭昇太(しゅんぷうていしょうた)師匠が、女将にふとお話ししたことが由来になっています。
「大師匠にあたる春風亭柳橋(しゅんぷうていりゅうきょう)師匠はその昔、吉田茂首相のお座敷で落語を披露したらしいよ。」
女将:「文人墨客がお座敷遊びの中で落語家を呼び、銘酒に酔いながら一席聞く。そんな艶っぽい古き良き落語の姿を昇太師匠に教えてもらいました。
その風景に惹かれて、再現したくて、お店の目指す姿を決めました。きっと昇太師匠は言ったこと忘れていると思いますけど(笑)」
女将の口からポンポンと有名落語家さんの名前が出てきて、落語ファンの私は目眩がしそうでした…!
さすが落語番組を制作していただけあって落語家さんとの交友関係も広い女将。知人だけでなく、お店の噂を聞きつけた落語家さんもおみやげ片手に遊びに来てくれるそうです。
落語を近距離で楽しむつくり
店内は、通常の公演ではありえないほど落語家との距離が近くつくられています。素材に杉の木を使っているため、ふわりと木の心地よい香りに包まれる日本的な空間。
落語会が開催される日は、観覧料を含めたセットメニューが用意されています(4800円)。前菜、メイン料理2品、ご飯もしくはデザート、1ドリンクが楽しめます。
ドリンクは各地から選んだ日本酒が揃っていて、その飲み比べを楽しむ常連さんもいます。もちろんノンアルコールもあります。
この日のメイン料理の「やりいかの味噌バターホイル焼き」と「肉じゃが」。女将が丹精込めてつくるできたてのお料理はアツアツで、ほっとする味です。日によって内容を変えるそうなので、落語と同じくお料理も一期一会。
「そのうち落語に出てくる料理を出すようにしたいんです。例えば、おでんが出てくる噺を落語家さんにしてもらって、私はおでんを提供したり…」と言う女将。
身をもって落語を体感するってことですね。耳も目もお腹も満足する時間が過ごせそうです。はやく実現してほしい!
さて、お腹が満たされた頃にお目当ての落語家が登場。
うかがった日は三遊亭愛楽(さんゆうていあいらく)師匠による、ほろりと泣けて心温まる恋愛もの「紺屋高尾(こうやたかお)」という噺が披露されました。
演目が終わると落語家さんと一緒にお酒を楽しんだり、人によっては写真を撮れたりもする、始終落語家との距離の近いお店です。
寄席やホールで聴く時には遠い高座の上にいる人が、こんな近くにいるなんて…と不思議な気持ちになりました。
加えてユニークなのが、おひねり制度。お座敷遊びでは定番のおひねりですが、「やきもち」では500円で一枚と交換できるおはじきを、おひねり代わりに落語家へ渡せます。
粋なお座敷遊び気分を楽しめる制度です。
落語ビギナーに優しい仕組み
「やきもち」は落語初心者さん大歓迎のお店です。
女将:「オープン当初から、事前に落語家さんと披露する噺を打ち合わせして決めて、ネットで公表しています。」
これって通常の落語公演ではあまり無いことです。
女将:「うちは落語を初めて聞くお客様が多くて。事前にどんな噺をやるのか知れると安心、とお声をいただいているんです。」
確かに軽く予習をしてから実際に聞くと理解も深まるし、「◯日にやる◯◯の噺を聞きたい」といった選択もできますよね。
この制度をいつまで続けるかは決めていないとのことで、ビギナーさんは今がチャンスかもしれません。
女将:「お客さんに落語家さんの最高のパフォーマンスを見てもらいたい、という想いがあります。
落語家さんにとっても、できたてのこのお店にどんなお客さんがいてどんな空気感を持っていて、というのは分かりづらい。一番お店のことを理解している私が、“落語家さんの魅力がうちのお客さんに一番伝わる噺はなんだろう”と考えて提案するようにしています。」
一席一席、丁寧に考えられて開催される落語会情報はお店のFacebookやサイトをチェックしてみてください。
落語家ゆかりのものが散りばめられた店内
このように落語家との付き合いの深い女将がつくったお店には、ファンにはヨダレ物のグッズが使用されています。
入り口ののぼりは昇太師匠から。暖簾は桂歌丸師匠から贈られたもの。
高座の座布団は女将が「笑点」の現場を卒業するときにもらったものだそう。厚みがあって、ふかふかしてそう!
落語家の手ぬぐいを縫い合わせて作った、かわいいランチョンマット。落語家それぞれが自分を表すモチーフをデザインしているので、その意図をひとつひとつ読み解くのも楽しいですよ。
お店のロゴと店内の机に使われている独楽のマークは、落語「悋気の独楽(りんきのこま)」に由来するもの。「やきもち」が目指すお座敷遊びの風景は、芸妓さんなどが集まる花街でよく見かけられたものですが、「悋気の独楽」はその花街が舞台です。
落語の噺のオチはそれぞれ大抵決まっていて、「悋気の独楽」の場合は「辛抱が狂っております」と言って終えるのが通常。
しかし、立川生志(たてかわしょうし)師匠だけはこの噺のオチに「やきもちでございます」という言葉を使用しています。登場人物の女性が「辛抱」するのではなく「やきもち」を焼いている、と生志師匠は考えそう表現しているのです。
女将はその「やきもち」という表現に、女性特有のかわいらしさを感じ、店名とロゴに使用したのだそうです。
この机、とても面白いつくりになっているんです。お店のモチーフである独楽が描かれたすりガラス部分が、なんと上へ持ち上がり収納可能。障子のようなデザインで、一気に和風空間になります。
机自体も収納できるそうで、ホールとしての貸し出しも対応できるとのことです。
「笑点」の女性ディレクターが飲食店をオープンしたワケ
最後に、私がこのお店のことを知ってから一番気になっていた女将のキャリアについてうかがいました。
女将:「ある日、知人のバーで『落語家を呼んで一席やる会を開かないか』と持ちかけられたんです。知り合いの落語家さんを呼んで、噺の内容に合うお料理やお酒を出して…という会をコンスタントに開催するようになりました。それがこのお店の前身とも言えます。」
この落語会を主催する中で「テレビ制作を辞めて開業しよう」と決心した女将。演出や運営をおこなう制作の楽しさに改めて気がついたからだそうです。
女将:「ちょうどキャリアについて悩んでいた時期でした。制作職から管理職に移行しかけていた時だったんです。
私は管理職ではなく演出や運営を手がけるプレイヤーでいたい、だったら今が辞めどきなのかも、と薄々感じていました。
落語会を主催する中でその予感が確信に変わったので、会社を辞めることに迷いはなかったです。」
「好きなことを仕事にする」バイタリティとキャリアをお持ちの女将のお人柄に強く惹かれました。
ちょっと奮発して落語デビューをしに、この秋新たな趣味を見つけに、はたまたアフターファイブの新たなスポットとしてもいかがですか?
女性も来やすい雰囲気のきれいな店内、おいしいご飯とお酒、優しい女将、爆笑必須・実力派の落語家さんが待っていますよ。
落語・小料理 やきもち
住所:台東区台東1丁目12-11青木ビル1B
TEL:03-6803-2050
10月31日まで
営業時間:(火~土)18:00-24:00、(日)貸切・貸席のみ
定休日:月曜日
11月1日から
営業時間:(月~金)18:00-23:30、(土・日)貸切のみ
定休日:土日を除く祭日
落語が開催される日:毎週火曜日の20:00〜
サイト:http://yakimochi.info/
Facebook:http://www.facebook.com/yakimochi0321