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世界に広がるZINEのこと vol.2|『LINE AS A CLIMAX』
旅先の韓国の本屋で出会った1冊のZINE
LINE AS A CLIMAX
こんにちは、橋本香です。ZINEが大好きな私ですが、文化や歴史、人の生活という事にもとても興味があり、ここ数年は、アジアとヨーロッパを旅行しています。第2回目は、そんな旅先で見つけたZINEの中から、1冊紹介したいと思います。
日本からも飛行機で約1時間半、もしかすると国内よりも近い?かもしれない、おとなり韓国で見つけたZINEです。韓国でもアートやデザインは盛んで、アートブックフェアも開催され、ZINEやアートブックのイベントは入場制限が出るほど人々が注目しているそうです。
私がこのZINEに出会ったのは、ソウル市内にある「your mind」というリトルプレス専門書店でのこと。この本屋さんを教えてくれたのは、旅行中に立ち寄った雑貨屋さんの店員さんでした。日本語が少し話せる店員さんにおすすめしてもらい、お店の場所を教えてもらいました。こういう、ちょっとした現地の人との交流も、ZINEをめぐる旅の楽しみのひとつです。
さっそく教えてもらった場所に行ってみると、川沿いに小さめのマンションがありました。その建物の5階のドアを開けると、本が天井まで所狭しと並んでいて、びっくりするような素敵な空間が広がっていました。大きな窓からは川が見え、気持ちのよい空間と本の匂いの中、猫がお昼寝していました。そんなワクワクする空間で最初に手に取ったのがこのZINEでした。
欲しいZINEを見つけたというより、
「目が合ってしまった」そんな出会いでした。
このZINEの第一印象は「?」でした。本というより、雑貨のような見た目で、透明の袋に2つ折りにされたA4サイズの紙が数枚と、小冊子が入っていました。シンプルだけど蛍光ピンクで印刷されたCLIMAXの文字がかっこうよく、どうしても中が見たくなったのを覚えています。そう、なんとなく、欲しいZINEを見つけた!というより、目が合ってしまった、そんな感じでした。
さっそく、この冊子を広げてみると、折りたたまれた10枚の紙からは、雰囲気が少しづつ違う、いろいろなデザインがでてきたんです!1枚1枚広げるたびに、そのデザインの自由さに魅了されていきました。そして、不思議なことにホチキスや糸で綴じられているわけでもないのに、まるでページをめくっていく新聞のようで、綴じていないZINEもいいなぁと思ったのを覚えています。
この用紙の外側面にはそれぞれタイトルが描かれていますが、この1枚は「VERSATILE」。6色の形の組み合わせで、アルファアベットが一文字づつが作られていて、それぞれにはコメントがついています。私は三角になる、、、そしてジグザグになる、いったいどういう意味があるのかな。
つぎに不思議な世界に引き込まれてしまいそうなデザインが2枚。(左)「MYSTERIOUS」と(右)「PROFOUND」。
デザインでよく言われる黄金比が画かれた上に、緑のラインのデザイン「ERUDITE」。
実は、このラインはドットがつながって画かれたラインなんです。
「DAZZLING」は、たくさんのラインの中にひとつの丸い形。ずっと見ていると、周りのラインも丸い形に見えてくる事に気がつきました。
「COMPLEX」の左右の絵は、まるで対照的に、自由な曲線と、規則正しい線でデザインされています。
実はZINEは2つの要素だけで作られていたんです。
全部の紙を見たあと、綴じられた小さいZINEの方を見てみると、こちらは文字だけで作られていて、初めのページは、こんな言葉で始まります。
“ Once upon a time there was a sensible straight line who was hopelessly in love with a dot.
(『LINE AS A CLIMAX』より引用)”
むかし、ある点(dot)を絶望的に愛していた感覚的な直線(Line)があった。
そして、小さいZINEには、あちらこちらに DotとLineの文字が。そうなんです、実はこのZINE、DotとLine2つの要素だけを使って、構成、デザインされたZINEだったんです。
次にページをめくると、左上には、LINE:とDOT:の文字。左のLINE:と書かれたページのフォントはまるでラインをポキポキと折って並べたかのような文字で文章が書かれています。右のDOT:と書かれたページの文字は、蛍光ピンクで丸をベースにしたフォントを使っています。
なぜDotとLineなのかも、最後のページに書かれていました。
This is a project that attempts to reinterpret Norton Juster’s《The dot and the line》.
(このプロジェクトは、ノートン・ジャスティアの《The dot and the line》を再解釈したものです。)
1963年にアメリカの作家 ノートン・ジャスティアが描き発刊された『The Dot and the Line – A Romance in Lower Mathematics』という本。この本は、男性と女性をLineとDotとして表現し、その恋を、直線的な線や曲がった線で表現した本で、その内容を10名のクリエイターが再解釈するという試みで作られたものだったんです。そして、そこまで読んで、それぞれのデザインにつけられたタイトルが、もしかしたら、恋の複雑な感情を表現しているのかもしれないと思いました。
DAZZLING 眩しい
CLEVER 上手い
MYSTERIOUS 神秘的
VERSATILE 多才
ERUDITE 博聞
ELOQUENT 雄弁
PROFOUND 深遠な
ENIGMATIC 謎めいた
COMPLEX 複雑
COMPELLING 説得力のある
Dotをそのままではなく、緩やかな曲線として表現したものがあったり。
よく見ると気がつく、細かい点描のデザインもありました。これもDotですよね。
普段ZINEを買うときには、作者やお店の方がZINEにこめられた「表現したいもの」を話してくれます。そのせいもあって、ZINEの内容をより知ることができるのですが、そうでない場合、こんな風に少しづつ内容を見ていくと、さらにそのZINEの奥深さに引き込まれていきます。 このZINE、デザインはもちろん、コンセプトもとっても興味深いZINEなのでした。元になった《The dot and the line》も読んでみたくなりました。
「LINE AS A CLIMAX」の出版数は限定200冊。ZINEとの出会いは、クリエイターの新しい試みに触れることができることでもあり、出会えたことを嬉しく思います。次回もまた、わくわくする内容のZINEを紹介します。
つづく
『LINE AS A CLIMAX』
PRINTING/PUBLITHING Corners
CONCEPT DESIGN teksture
2015年発行
Edition of 200
【CONTRIBUTORS】 (『LINE AS A CLIMAX』 (2015)より引用)
DAZZLING Daiwoong Kim(Corners)
CLEVER Eonhyeong Seong
MYSTERIOUS Kangin Kin(Kimgarden)
VERSATILE Jan Muenz
ERUDITE Hyojun Jo(Corners)
ELOQUENT The Rodina
PROFOUND Kyuhyung Cho
ENIGMATIC Koos Breen
COMPLEX Sera Yong
COMPELLING Hey Jude
◆関連サイト
코우너스 Corners
Corners
YOUR MIND