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鎌倉『鉢の木』ではじめての精進料理ランチを体験
こんにちは!箱庭編集部の祥子です。
ちょっぴりゆとりを持てる週末、からだとこころを楽しみつつ自然に整えることを目指して始まった『週末からだ時間』。
年齢を重ねるごとのこころの変化って人によりさまざまだと思うのですが、わたし自身は年齢を重ねていくごとに、自然にもっと近寄った食事をしたいという気持ちが強くなっているのを感じています。もっと季節や旬を意識したり、あまり手をかけすぎずに素材そのもののパワーを感じてみたいなあ…と。
そんな中で、いつかきちんと体験したいなあと思っていたのが精進料理。最近、周囲でも同じように精進料理が気になるという声が多くて驚きました。
仏教の教えをベースとした、植物性素材のみでつくられる「精進料理」
精進料理は仏教の教えをベースとして、先日ご紹介したヴィーガンフード同様、植物性の素材のみで作られています。殺生を避け、旬を意識し、素材を残さず生かしきるという考えを持った精進料理は、とても自然に寄り添った料理だと感じます。
ただ、日本の伝統的な食事スタイルとはいえ日常的なものではないですし、今まで改まって向き合ったことはありませんでした。
そこで今回は、創業以来50年に渡って鎌倉の地でお店を営む「鉢の木」さんで、精進料理を体験することにしました!
地元で50年愛され続ける 精進料理の老舗
のどかな北鎌倉駅から数分、東慶寺と浄智寺に向かって歩いていくと、道沿いに鉢の木が見えてきます。
昭和39年、おにぎりと精進揚げから始まった鉢の木は、鎌倉の地元の人たちや自然と密接に繋がりながら今日まで続いてきました。お店の名前は、日本で初めて「禅」を取り入れた建長寺の門前で創業したことから、その古事にちなんでつけられたそうです。
春は草木の新芽を、夏には青々とした葉もの、秋は穀物、冬にはからだを温める根菜類など、日本の四季を感じられる旬を取り入れた精進料理を提供しています。
かしこまったマナーはいらない!?
今回案内していただいたのは、畳の上にテーブルがセットされた空間。庭に面した大きな窓からの日差しと室内の柔らかい照明で明るすぎず、静かにこころを落ち着けられそうな雰囲気です。
早速、ランチメニューの「精進料理 桂」3,564円(税込)を注文しました。
この日のラインナップは、こんな感じです。
前 菜 稲荷棒寿司 蚕豆翡翠煮 金柑蜜煮 分葱酢味噌和え 菜花辛子和え
炊 合 大根含め煮 車麸 隠元 蓮根 金時人参
段 付 胡麻豆腐 山葵
坪 水菜浸し 椎茸
小 付 卯の花和え
温 物 筍の小鍋仕立て 筍 若布 蕗 梅麸 海老芋 木の芽
飯 豌豆生姜御飯
汁 味噌建長汁 青味 豆腐
香 物 赤蕪 高菜漬け 昆布山椒煮
水菓子 清美オレンジ
仏教と密接に繋がっている精進料理の「精進」は、雑念を取り払い、限りなく完成された自分自身に近づく努力、行動をしていくことを意味しているとされています。精進料理を調理することも食べることも修行のひとつだと考えられているようです。
そして、すべてのものにいのちがあるという仏教の考え方から、素材を無駄なく生かしきり、季節の流れに逆らわず旬の素材を自然に取り入れることが意識されています。植物性素材のみで作られるのも、動物の殺生を避けるためだとか。
わたしは今回、きちんとした精進料理を食べるのは初めて。お店に辿り着くまでにネットで作法を検索しながら、精進料理って一体どういう風に食べることが正解なんだろう…とやや緊張気味でした。そこで、思い切って店主の藤川さんに聞いてみると、意外な答えが返ってきました。
「精進料理の作法について聞かれることがとても多いのですが、決まった食べ方のルールはありません。楽しんで食べて、からだとこころが喜ぶかどうかが何より大切ですよ。」
鉢の木の精進料理も、「正しい」精進料理かどうかではなく、あくまで現在の精進料理として自分たちが信じているものを提供しているのだとか。分かりやすく取り入れてもらうために敢えて禅宗用の提供スタイルにしているけれど、提供の仕方も時代によって異なるので、これが正式!というわけではないとのこと。
一般的に精進料理は、中国の陰陽五行説からくる「五味五色五法」という5つの味覚、色、調理法に従って作られるとされています。その部分も、鉢の木ではベースとして意識しながらも無理に縛られすぎずに作っているそうです。
人はすぐに、これは正しいものか正しくないものか?と考えてしまいますよね。それが歴史ある事柄ならなおさらです。今回のわたしもそうでした。でも、精進料理の根底にある禅の精神の基本は、自由を求めるこころ。だから、精進料理ももっと自由なものでいいと思うと藤川さんは言います。
そう言ってもらったことによって緊張がほぐれ、すごく気持ちが楽になりました。
想像力を働かせて食べると味わいが変わってくる
「料理を作った人はどうやって食べて欲しいと思っているだろう?と想像力を働かせて食べることが、精進料理では一番大切なことだと思いますよ。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく食べる。美しいなと感じたものから、食べるというのもいいですね。」
そんな藤川さんの言葉を受けて、まずは一番に目に入った、真ん中に置かれた葛と胡麻のみで作られた胡麻豆腐を口に入れてみました。
口に入れると、胡麻の香りとほんのり粒感を感じました。飲み込んだ後も、風味が余韻として残ります。さらりとした味わいのようでいて、後味として重なるようにいくつもの風味が現れてきます。それを追いかけるように味わうのも、新鮮な体験でした。
次に、その姿が肉そぼろのように見えて気になっていた、生麸に生姜と胡桃を合わせたしぐれ煮を一口。しっかりとした味わいとポリポリッと芯を感じる歯ごたえは、まるでお肉のようです。噛み締めていくと、植物性素材の青みある風味が現れてきます。
そしてお料理が運ばれてきたときから、ツヤツヤ光る姿が気になっていた高知県産の金柑を使った「金柑密煮」。もしかしたら、こういった甘いものは食事の後半に食べるのが普通なのかも知れませんが…。藤川さんのお話にもあったように、自分の気持ちに正直に!口に運びました。
口の中に入れるととろんと溶けるように、思った以上の柔らかさでほぐれて、噛むとじゅわっと濃厚な甘さが広がります。
植物性の食材を使った精進料理は、動物性の魚や肉を使った料理のように旨味ががつんと強く前に出てくることがないので、静かに味わいを観察し、その裏側を想像しながら食べることができるそう。
部屋に掛けられた掛け軸には、「月落ちて天を離れず」と書かれています。これは、月は見えなくなるけれど、天を離れているわけではないという意味。
見えなくてもそこにいる月を想像するように、料理の裏側を想像しながら食べることが、料理の味わいを豊かに変えるのですね。
食べる人自身が積極的に料理に向かっていくことで、そこに新たな旨味が現れてくる。それは、主体性をすごく大切にしている禅宗に通ずる部分だそう。
確かに、料理に「自分から歩み寄っていこう!」「これは一体どうしてこのような風味になるんだろう?」と向き合っていると、自然に意識が集中して、味覚が冴えてくる気がします。精進料理って、自分自身の五感をフル活用させて食べるお料理だなあと感じました。
鉢の木には、週末に訪れる20〜30代の女性のお客さまも多いそう。一人でゆっくりと味わいながら、静かに瞑想をされる方もいるのだとか。
ものを消費することがいいという時代は終わって、本質的なものを見つめ直そうという若い世代は増えてきていると感じる、と藤川さん。鉢の木ではこれからも、日本料理の原点である精進料理を伝え続けていきたいと言います。
今回体験してみて、精進料理を食べるということは、ただ「食事を摂る」という行為ではないなと思いました。精進料理を味わうことで現れる自分自身の感覚とその都度向かい合うので、自分そのものを見つめ直すような感じでした。
この週末は自分自身と向き合って、からだとこころをリセットしに、ぜひ鉢の木に出かけてみてくださいね。
鉢の木 北鎌倉店
場所:神奈川県鎌倉市山ノ内350(東慶寺・浄智寺そば)
営業時間:平日11:30〜14:30(ラストオーダー) 土日祝日11:00〜15:00(ラストオーダー)
予約のみの夜席 ※前日まで要予約:0467-23-3723 17:00〜19:00(ラストオーダー)
定休日:水曜
公式Webサイト:http://www.hachinoki.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/hachinoki_now
Facebook:https://www.facebook.com/kamakurahachinoki
鎌倉 建長寺の精進料理 家庭で作れる名刹の味 巨福山 建長興国禅寺 (監修)
単行本: 128ページ
出版社: 世界文化社 (2013/9/24)
言語: 日本語
ISBN-10: 4418133348
ISBN-13: 978-4418133345