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有田焼は高級ではなく、贅沢。有田焼の価値観を届ける、有田のセレクトショップ「bowl(ボウル)」
こんにちは、箱庭編集部の森です。
「#mediacruise」で行く、佐賀県有田町・嬉野市の旅にシオリと一緒に参加してきました。
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「#mediacruise」とは?
地域とメディアを繋ぐ新しい取材のかたちを実現したい!という想いのもと、cocorone・灯台もと暮らし・箱庭・さんち・dripの5つのメディアが合同で地域の取材に行くという取り組みです。まだ眠っている地域のユニークな魅力と、私たちメディア、そして読者のみなさんをつなぐ新しいかたちの実現を目指して、クラウドファンディングを実施しました。(現在は終了)
これまでの記事
お茶を五感で味わう!産地ならではの“体験”が出来る街、佐賀・嬉野市。
(嬉野のご報告から随分時間が経ってしまい、すみません…!)
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私は、2回目の佐賀県。うつわ好きということもあり、焼き物の産地がたくさんある佐賀県は、個人的に全国の中でもかなりおすすめしている旅先です。佐賀の魅力をどうにか皆さんに伝えたいという想いを胸に行ってまいりました!ここからは有田について、私とシオリで何回かに分けて伝えていきます。
今回ご紹介するのは、有田町に今年4月オープンしたばかりのセレクトショップ「bowl(ボウル)」です。有田に行くならぜひ立ち寄っていただきたいお店ですが、マネージャーである高塚さんの考え方もとても素敵で、お店をつくるということ、そして働くという事に対して刺激をもらえる記事になったんじゃないかと思います。佐賀にまだ行く予定のない方も読んでもらえたらと嬉しいです。
なんでも放り込める受け皿みたいな存在になりたい
有田駅から徒歩5分、この趣きある建物がセレクトショップ「bowl」です。有田の地域活性を手がける「㈱有田まちづくり公社」がクラウドファンディングを活用し、築約100年の陶磁器商家の建造物を改装してつくられました。
bowlと言う名は「器」という意味。なんでも有田の窯業関係者の方は、湯呑みのことを「コップ」と呼び、鉢状の器のことを「ボール」と呼ぶのだそうです。
マネージャーの高塚さんはこう話します。
「有田では、ボウルというと球のボールではなく、器のことをすぐに思い浮かべてもらえるんじゃないかと思いました。まずは地元の人たちに愛されればお店の存続は可能ではないか?と仮設をたて、みなさんが噂話してくれるような呼びやすい単純な名前が良いと思ったのと、うつわが広いというか、なんでも放り込める受け皿みたいな存在になりたいと思いました。」
広い店内には、有田焼だけではなく、各地の工芸品や身の回りの生活用品、服飾品が並びます。
高塚さん「地元の方には新鮮に、地方から来た人には田舎で見たい雑貨屋のあり方みたいなところを目指しています。生活の中にあるようなものを、人のおうちにある位の比率でセレクトしていて、そうなると食器は1割くらいでしょうし、衣類もそんな感じで、食品や文具を置いたりしています。」
ただ、それだと有田でなくても…?と思いますよね。
いいえ、bowlのコンセプトは「有田焼の価値観」なんです。
有田焼は高級ではなく、贅沢。お金で変えない価値あるモノコトを扱いたい
高塚さん「有田焼って高級品みたいなイメージがあると思うんです。だけど私は高級じゃなくて、贅沢なものではないかなと思っているんですね。有田焼は磁器発祥の町ですが、磁器が入ってくる400年前の日本の食卓って、茶色一色だったんじゃないかなと思うんです。それが真っ白になって、割れにくくて清潔になって、絵柄がついたときには『あー贅沢だな』って思ったんじゃないかなと。今は有田焼って高級みたいなことを言われていますけれども、高級なものってお金を出せば買えますが、贅沢なものってそうじゃないですよね。そういうモノコトを扱えたら有田に似合う雑貨屋さんだねって言ってもらえるかなと思っています。」
…すごい!有田焼をただ薦めるのではなく、有田の価値観をあらためて気づかせる。地元の方は誇りに思うでしょうし、地方の方には有田の良さを再認識できるお店になるんじゃないかと思いました。
「モノや人に優劣なんてない。」ディスプレイに取り入れている考え方
bowlは、ディスプレイも普通のお店とは少し違います。値段もカテゴリもまちまちのものが隣に並んでいたりするんです。
こちらは茶筒の横に、アウトドア用のごみ箱がディスプレイされていました。
高塚さん「モノや人に優劣なんてないと思っています。家の中に置きたいアートピースが欲しい時もあれば、消耗品の安いモノが欲しい時もある。このオレンジの入れ物はアウトドア用のゴミ箱ですが、野山でゴミを放り投げない人は、割れてしまう焼き物の茶筒も面倒臭がらずに使うんじゃないかと思ったんです。使い勝手のシーンを演出する親切なディスプレイをやろうと思えばできるんですけど、「考えるって楽しい」という価値観を提案しているので、お客さまがご自身で考えて、適当に選んでくれたらいいんじゃないかなと思っています。
有田は、歴史もあって、古くからの日本食のルールに則った器を生産しているフォーマルな町なので、そんな有田だったらこんな多少ふざけたディスプレイもたまにはあってもいいし、遊び心と笑って許してもらえるんじゃないかと思いました。」
フォーマルな有田焼の上に、こちらは波佐見地方で制作している作家さんの「焼さんま」は食品サンプルだそう。
「どちらも作品だと思ったので。」と話す高塚さんからは、有田焼と食品サンプルの両方に作り手へのリスペクトが垣間見れました。
なんとなくセンスが良いからというよく分からない言葉にはしたくない
でも高塚さんならではのセンスが、このお店をつくっているそんな風に思ってしまいせんか?それも違うのだと話してくれました。
「田舎ってこういうことやってると“あなたがたまたまセンスがいいから出来る”みたいに思われちゃったりするんですけど、違います。センスとかじゃなくて、ただただ一生懸命に観察して、仮説を立て検証をし、反省し生かせるものは継続する。その単純な積み上げです。“センス”言われてしまうと、例えば売れなくなったりしたら、人のせいにされたり、モノのせいにされたりするんですね。でも、そんなふわっとしたよくわからない誰かの感覚や価値観で、あの人じゃないとできないみたいな、そういう判断をされると、感覚な仕事をしたかったりオリジナリティある創造人材は生きずらくなっちゃうんですよ。私は、環境も人も商品も全て揃って初めて売り上げって上がると思っているので、なにかの因果関係で売れないってことだと思うんですよ。
店づくりに関わる、もの選び、演出、いわゆる「感覚的な仕事」にも方程式がある。組織の中でも仕組みが整っていさえすれば、感覚的な業務も意味あるものとして検証されていけるはず。誰にでもできる仕事にしたいと思います。理論や定義があってやっているという事を知ってもらいたいです。まずはウチみたいな店があって『あの人みたいにやればいいね』って自分もお店出そうか、こういうことしようか、みたいに真似してもらえるんじゃないかな。そんな単純なものにしたいと思います。」
高塚さんご自身は専業主婦だったそう。大分県の出身で21歳の時に波佐見町の窯元に嫁ぎ、HANAわくすいという植木鉢屋さんを自分の考えで一から生活用品店に変え、観光客がいなかった波佐見に観光客が押し寄せる人気店にした実績を持ちます。雑貨が特に好きだったわけでも、バイヤーとしての経験値があったわけでもなく、地元らしさをひたすら模索し、自分が受けた接客サービスの中で良かったものを思いだし、その考えを仕事に活かしたのだそう。
「私は実家に母も父も置いてきちゃったんですけど、なんでかっていうと地元に働ける場所がなかったからだったりします。それをとても申し訳なく思っています。家族が近くにいることが何をおいても一番幸せだと思っているので、せっかく地元に産業があるのなら、勝手ながらその産業に“額縁”をつくるようなことが出来ないかなと思ったんです。わかりやすい額縁によって、今までと違う循環が生まれたり雇用が発生すればうれしい。家族が離れることなく近所に住みつづけるきっかけに、何かしら貢献できたらと思います。スタッフも取引先もお客様も、店に関わるみんなを幸せにすることが店のビジョンです。」
家族一緒に暮らせるように、理論で仕事を考える。
その考え方は、どの地方で暮らしていても取り入れるべき考え方だと感じました。
有田を旅することがあるなら実際にぜひ足を運んでみてください。
bowl(ボウル)
住所:佐賀県西松浦郡有田町本町丙1054
TEL:080-7983-5733
営業時間:11時~18時
定休日:水曜日
Instagram:@bowl_arita