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400年の歴史の中で代々続くものを、いまの暮らしにあうように受け継いでいく有田の窯元「陶悦窯」
こんにちは、箱庭編集部の森です。
「#mediacruise」で行く、佐賀県有田町・嬉野市の旅。前回から有田町の旅をお届けしていますが、今回は有田の窯元のひとつ「陶悦窯」にお話を伺いました。
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「#mediacruise」とは?
地域とメディアを繋ぐ新しい取材のかたちを実現したい!という想いのもと、cocorone・灯台もと暮らし・箱庭・さんち・dripの5つのメディアが合同で地域の取材に行くという取り組みです。まだ眠っている地域のユニークな魅力と、私たちメディア、そして読者のみなさんをつなぐ新しいかたちの実現を目指して、クラウドファンディングを実施しました。(現在は終了)
【これまでの記事】
お茶を五感で味わう!産地ならではの“体験”が出来る街、佐賀・嬉野市。
有田焼は高級ではなく、贅沢。有田焼の価値観を届ける、有田のセレクトショップ「bowl(ボウル)」
藤巻製陶さんで伺った、これまでにない直線が美しい器「1616 arita japan」が生まれた時のお話。
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江戸時代の器を3Dスキャンして型を製造!各窯元の得意技をその形状にのせてつくった器。
こちらが陶悦窯です。窯元というと、もうすこし歴史ある建物を想像していたので、おしゃれな建物にビックリしました。
「#mediacruise」ではクラウドファンディングのリターンとして、各メディアが佐賀のおみやげBOXを制作したのですが、そのおみやげBOXに入れるべき商品を探していた時に出会ったのが、木瓜型手塩皿の黒柚子内銀塗りと紫素金塗りでした。
上品だけどカジュアルさもあって、箱庭読者がきっと好きなんじゃないかなと思ったのはもちろんのこと、個人的にも一目惚れしまして、私自身もおみやげとして購入しちゃいました。こちらの商品を制作している窯元が「陶悦窯」だったんです。
実はこの木瓜型手塩皿は、江戸時代の形状を継承してつくられたのだそう。
陶悦窯 十四代窯主 今村堅一さんにお話を伺いました。
今村さん「3~4年前に保管されていた江戸時代の器を3Dスキャンし、釉薬のかかっている分を計算して型をつくり、制作しました。陶悦窯だけの型というわけではなく、有田の窯元みんなでその型を使ったんです。最初は20窯くらいあったかな。今も続けている窯元は、ちょっと減っちゃいましたが。
はじめは昔の復刻版みたいなものをやろうっていう話もあったんですけど、それじゃあ面白くないよねってなって。それはもう昔のが良いのは分かっているので、復刻する意味を考えた時に、形状は同じものだけど、各窯元の得意技をそこにはめたら面白いんじゃないかって話になったんです。有田の特徴を外の人に向かって伝えるときに、バラエティーがいろいろあった方が有田ってわかりやすいかなぁと思ったんです。有田の特徴は、幅広すぎて特徴なんてないと言う人もいるんだけど、それが有田の特徴だと僕は思うから、そういうのがやりたかったんです。
それで制作した各窯元の手塩皿を全種類、東京ドームで開催されたテーブルウェアフェスティバルで壁に貼って展示したんですが、それはもうすごかったですね。ものすごい人だかりが出来て、いまでも伝説で語り継がれているくらいです。」
たまたま見つけた木瓜型手塩皿にそんなストーリーがあったとは…さすが400年続く有田焼の町!江戸時代から継承された形だと思うと、より一層大事に使っていきたいな~と思います。
陶悦窯ならではの、落ち着いた金と銀。下地や焼成時の積み方にも工夫。
それにしても陶悦窯の金銀のこの風合い、そして質感。素敵ですよね。
今村さん「金や銀を扱っている窯元さんは他にもあるんですけれども、派手過ぎない、ただキラキラとしているわけじゃない、ちょっと落ち着いた金と銀を狙ってつくっています。これが、ちょっと難しいんですよ。金と銀って上絵で塗るんですけど、1回目の本窯での下地のつくり方を工夫していたり、焼き方によっても金・銀の出方が左右されるので、焼成時の積み方でも変わってきます。」
窯元の作業場も見学させていただきましたが、まるでテトリスのように積み上げていました。
同じ器ばかりを焼かないのは、窯内の場所によって温度が変わるためと、釉薬によって温度を変える必要があるからだそうです。む、難しい…!積むという作業も、職人技なんですね~。
祖父がつくった水差しをオマージュ。代々受け継がれたものを次の世代にも受け継いでいきたい。
陶悦窯の器はどれも素敵なんですが、もうひとつご紹介したいと思います。
有田取材で色々な場所をめぐっていた際に、気になった写真左の器。こちらも偶然、陶悦窯のものだったことが判明しました!
白い陶器に彫り模様。主張しすぎないのに個性があり、美しい…!フラワーベースとして使用されていましたが、お花を主役にしつつ、器からも感じる女性らしい空気感に、思わず惚れ惚れとしてしまいました。
この器も実は参考にしたものがあったのだそうです。
今村さん「隣町に三川内焼という、こういう形状が得意な産地があるんですけれども、私の祖父がそこの出身で、祖父がボディーを作って祖母が上の花を作った水差しがあります。(写真右)
有田に移り住んだ時に、こういった商品を一旦止めて、今の商品をつくっていたんですけど、なんとなく自分も歳をとってきて次の世代に残せるものを考えた時に、代々やってきたものもう一回やって残したいなぁというのがあったんですよね。デザイナーさんたちとつくる新しいものも好きですけど、僕らは代々受け継がれてきたものをもう一度見つめなおして、また代々受け継いでいくことをしたいと思ったんです。自分の中の400年事業ですね(笑)。そうはいってもこういう凝ったデザインは、今の生活には不向きなので、雰囲気だけ受け継いでオマージュ的なものをつくりたいと制作したのがこれです。(写真左)
これまで茶筒はつくっていなかったんですけど、このデザインは普通の食器じゃなくて、生活の道具としても使えるんだけど、部屋に置いててもかっこいいと言うのをやりたいなと思って茶筒にしました。用途としては茶筒じゃなくても小物入れみたいに使ってもらってもいいかなと思っています。」
この器の型づくりは、今村さんが手作業で行っているのだとか。
ひぇ~!この美しさはやはり手作業から生み出されるものなんですね。
作業にあった道具を探し、活用する。
今回、陶悦窯の作業現場を見学させていただきましたが、現場もなんだか美しいんですよね。
商品もそうですが、道具も大事に使われているなーと感じる現場です。この写真は、窯上げするときの木箱ですが、魚屋さんや市場の方など、漁業関係の方から譲ってもらったものだそうです。
「器が熱いので、プラスチックだと溶けちゃうんですよね。最近、市場もプラスチックに移行されてきて、壊れないように大切に使っているんですけどね…。」と現場を案内してくれた今村さんの奥様がお話してくれました。
そういう背景もあったんですね。世の中は新しい便利な道具にどんどん移行されていくけれど、これまであったものがなくなることで困る場面もモノづくりにおいては少なくないのかもしれないですね。
勉強会二時間、飲み会三時間。月1回の窯元勉強会で、有田全体の向上へ!
もうひとつ陶悦窯さんを見学して感じたのは、若い働き手さんが非常に多いという事です。
今村さん「ちょうど4、5年前に定年を迎える方が続いて、これから長く続けるために若い子を育てていかないといけない。技術をある人を入れた方がとも思ったんだけど、できるだけ若い人に覚えてもらって続けてもらいたい。まぁイチから教えるわけだから色々あるけれど、それでも良かったと思っていますよ。」
今村さんと話をして何度も感じたのは、受け継いでいくという強い想いでした。新しい有田焼も注目されているけれど、400年の歴史の中で代々続くものを、いまの暮らしにあうようにまた受け継いでいく、とても大切なことだと感じました。
有田焼は2016年に創業400年を迎え、今年で創業402年。創業400年のときに、新しい取り組みがはじまったのだとか。
今村さん「ちょうど400年の時に有田の窯元七窯と勉強会を月に1回行っていたのが、いまも続いています。勉強会二時間、飲み会は三時間ですけど(笑)。自分ひとりでモノをつくっているとやっぱりちょっと煮詰まるんですよね。その勉強会では試作を見せあったりするんです。色々あーじゃない、こうじゃないって意見を言い合って、あいついいものつくるなぁ~とか、いい刺激になったりして。有田全体の向上につながるんじゃないかなと。」
お互いに認め合い、高めあっていく。こういう町は絶対強いですよね!
もともと有田焼は大好きでしたが、これからの有田焼がもっと楽しみになる。そんなお話でした。
陶悦窯
【お知らせ】
7/21(土)箱庭×さんち『尾崎人形の絵付けワークショップ』が開催決定!
陶悦窯の木瓜型手塩皿をはじめ、佐賀みやげ販売会も。
ワークショップ当日限定で陶悦窯の木瓜型手塩皿をはじめとする佐賀みやげも限定数販売します。ぜひお越しくださいね。詳細は、こちらをご覧ください。
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