LIFE 暮らしを楽しむグッドな情報
“窯を持たないメーカーになりたい”という想いを持った問屋さんが開発。有田の技術から生まれる美しい花瓶「なみだつぼ」
こんにちは、シオリです。
「#mediacruise」で行く、佐賀県有田町・嬉野市の旅。今回は、有田で一目惚れしてしまった素敵なフラワーベース「なみだつぼ」をご紹介したいと思います。
—————————
「#mediacruise」とは?
地域とメディアを繋ぐ新しい取材のかたちを実現したい!という想いのもと、cocorone・灯台もと暮らし・箱庭・さんち・dripの5つのメディアが合同で地域の取材に行くという取り組みです。まだ眠っている地域のユニークな魅力と、私たちメディア、そして読者のみなさんをつなぐ新しいかたちの実現を目指して、クラウドファンディングを実施しました。(現在は終了)
【これまでの記事】
お茶を五感で味わう!産地ならではの“体験”が出来る街、佐賀・嬉野市。
有田焼は高級ではなく、贅沢。有田焼の価値観を届ける、有田のセレクトショップ「bowl(ボウル)」
藤巻製陶さんで伺った、これまでにない直線が美しい器「1616 arita japan」が生まれた時のお話。
400年の歴史の中で代々続くものを、いまの暮らしにあうように受け継いでいく有田の窯元「陶悦窯」
佐賀県に700年以上伝わる「尾崎人形」。一度は途絶えた伝統を、62歳から受け継いだ高柳さんに会ってきたよ。
—————————
従来の有田焼のイメージから離れた、シンプルで暮らしに馴染む花瓶
こちらが、今回みなさんにご紹介するなみだつぼです。シンプルだけどそれぞれ特徴あるフォルムと可愛らしいサイズ感は、一輪のお花を何倍も存在感のあるものに見せてくれます。「#mediacruise」のクラウドファンディングで、リターンとして佐賀のおみやげBOXを制作する際、これはぜひ入れたい!と一瞬にして思ったアイテムです。
このなみだつぼを販売しているのが有田の問屋・ヤマト陶磁器株式会社。私たちは、有田の卸団地・アリタセラにある店舗へ足を運んで来ました。
お店に入ると、早速なみだつぼを発見!こうして様々な形がずらっと並んでいる様子も素敵です。
絵付けされたものもあります。繊細な柄は、思わずうっとりしてしまいますね。
このなみだつぼ、有田焼の従来の華美なイメージとは違い、シンプルで落ち着いた雰囲気。いったい、どのようにして生まれたのでしょうか?今回、なみだつぼをはじめ様々なアイテムを開発している、店長の山口武之さんにいろいろとお話をお伺いしました。
使い手に近い問屋の立場から、窯元にフィードバックすることで新たな商品を開発
もともと、窯元さんが流通と関係なく趣味のような形で作られていたものに山口さんが惚れ込み、ラインナップや見せ方、パッケージなどをディレクションして、今のようになみだつぼとして販売するに至ったそう。“問屋”という立場で商品の開発に携わる山口さんは、このようにおっしゃいます。
山口さん「窯元さんが産地でモノづくりをする一方で、問屋はそれを日本中に販売する役割です。いろんなところへ飛びまわるのでより使い手さんに近い立場で、窯元さんまで届いていない声を産地にフィードバックすることができます。
一時は売れればなんでもいいというようなバブル期もあったんですが、時代は変わって、今は使い手と作り手がより近い時代です。自分たちがそういう部分を窯元さんにしっかり伝えていく役割があると思っています。
ただ窯元さんが作ったものを仕入れて販売するだけじゃなくて、“窯を持たないメーカーになりたい”という想いで、企画段階から親身になって、一緒にやっていくというスタンスを大切にしています。」
そうして生まれたなみだつぼだからこそ、新しい魅力を放っているのですね。
なみだつぼの形は全部で18種類ありますが、400年前に作られていた古来より伝わる形を五分の一程度に縮小したものなんだそう。大きさが違うだけで、こんなにも新鮮な印象を与えてくれるのにはびっくり!
また、このマットな質感も今の暮らしに合う雰囲気にしてくれているように感じませんか?もともとは透明の釉薬をかけて作られていたものを、なみだつぼとして販売するにあたって変更したそうなんですが、釉薬があるとないとではこんなにもイメージが違うんですね。
有田には、チャレンジ精神旺盛な文化と、それを受けとめられる職人の技術力がある。
どの形も、スッと美しいフォルムをしているところにも惹かれるなみだつぼ。有田焼産地の中で最も手間が掛かる排泥鋳込みという成形方法で作られており、有田のなかでもこの方法をやっている窯元は限られるのだとか。小さいながらも有田の職人の技がぎゅっと凝縮されているんです。
こうした職人の技術をもっと伝えていきたいという山口さん。でも、従来の有田のイメージから離れた商品を開発するのは、反発などはなかったのでしょうか?
山口さん「有田は昔から業務用の製品もたくさん作ってきた歴史があります。例えばレストランからの注文だと、シェフからこうして欲しいといった希望がたくさん入るんです。それに、その都度対応することで技術を磨いてきました。だから、柔軟でチャレンジ精神旺盛なメーカーさんが多く、それを受けとめる職人の技術もある。それが有田の文化で、伝統なんだと思います。」
こうしたチャレンジしていく姿勢と、確固たる技術があるということは、今回私たちが有田をいろいろと取材するなかで、強く感じたことのひとつ。これが産地としての力強さの源だなと感じました。
これまでのイメージにあぐらをかかないモノづくり
商品を購入したら入ってくる箱もすごく素敵。こうしたひとつひとつが、このなみだつぼを手に入れた時の嬉しい気持ちを醸成してくれるような気がします。
作り手側の勉強もされていたことがあるという山口さんは、こうもおっしゃっていました。
山口さん「もちろん有田焼のイメージというものはあると思うけど、華美なイメージだけではなく、有田という産地でしかできない生産システムや技術力があります。もともと作り手の勉強をしていたからこそ、単純にそういった窯元さんの技術にフォーカスして商品を作っていきたいなと思いました。
これまでのイメージももちろん大切ですが、有田焼と言えばこういうものさえ作ればいいではなく、これまでのイメージにあぐらをかかずに取り組んでいきたいと思っています。」
有田がこれまで培ってきた技術と、柔軟にチャレンジしていく文化、そこに加えて山口さんのように技術を伝えたいと強い思いを持った方がいて、今の有田を充実した産地にしているんですね。
なみだつぼは、そんな技術が詰まったものながら、手ごろなお値段なのも魅力的。ちょっとしたギフトにしても喜ばれそうです。早速私はフラスコ型をお家で楽しんでいますが、他の形も欲しくなってしまっています・・!
みなさんも、どこかでなみだつぼに出会ったら、ぜひ手にしてみてくださいね。そして、有田のことを思い出していただけたら嬉しいです。
-
なみだつぼ
価格:白磁 1,600円、染付 3,000円
※オンラインショップ「Realita」にて取り扱い中
http://www.realita.jp/
ヤマト陶磁器株式会社
https://www.yamatotoujiki.co.jp/