週末読みたい本『フィリップ・ワイズベッカー作品集』

日常にあるシンプルなモノの美しさに気づかせてくれる作品集。

こんにちは。Keinaです。
本日ご紹介する週末読みたい本は、フィリップ・ワイズベッカー作品集です。

2000年の日本での初個展以来、日本でもファンを拡大してきたフィリップ・ワイズベッカー氏。わたしが彼を知ったのは、2009年にCLASKA Gallery & Shop “DO”のオリジナルの紙袋に描かれた朱塗りのお椀やお盆の絵を見たのがきっかけでした。それから、時々ふと目の前に現れるたび、素朴で味のある作品に心惹かれていました。変色した紙、定規を使った線、ざっくりとした色の塗り方、消し跡が残る感じがなんとも素敵です。

本書は半世紀にわたりつくり続けてきた作品の中から、2000年以降の作品を約700点収録したまさに集大成といえる作品集です。鉛筆で描かれた独特のパースの作品を中心に、立体作品なども12のカテゴリーに分けて紹介しています。アートディレクションは、日本初個展以来の友人である葛西薫氏。さっそくどんな作品か見てみましょう。

Brussels / Grand-Place(2006)
写真提供:PIE International
Brussels / Grand-Place(2006)
独特のパースとアンバランスさが、心をひきつけます。

From Kyoto to Osaka / Chushojima, Yawatashi(2002)
From Kyoto to Osaka / Chushojima, Yawatashi(2002)
箱や容器からもワイズベッカーさんは想像力を刺激される。貯水タンクもこうして見ると、形が美しいですね。

American Trucks(1999)
American Trucks(1999)
ニューヨークに住んでいたころ、毎日わくわくしながら通りに出て、トラック1台を選んでさっとスケッチしたそう。おもちゃのトラックのような形やカラーリングから勢いや楽しさが溢れ出てるように見えます。

US Navy / USS 002, USS 003C, USS 004, USS 006, USS 007C(2015)
US Navy / USS 002, USS 003C, USS 004, USS 006, USS 007C(2015)
デッサンシリーズの処女作でもあるミリタリー。1990年代後半、エディトリアルのためのイラストレーションに飽きてしまい、自分のための作品を制作したときに生まれたそう。

Outillage(2007)
Outillage(2007)
ありとあらゆるものを修理したり、作ったりしていた、叔父の影響で道具と出会ったそう。数百年をかけて完成された道具は素朴に見えて、熟練した腕にかかると素晴らしい働きを見せる。

Rubber Hose(2017)
Rubber Hose(2017)
巻かれたゴムホースもなんだか格好がいい。

Chaudieres / Chaudiere Mixte(1999)
Chaudieres / Chaudiere Mixte(1999)
ボイラー、ダクト、ガスバーナーなど機械装置を描くのも好きなワイズベッカーさん。どっしりとしたボイラーもシンプルで美しい。

La Chambre Grise, La Chambre Jaune, La Chambre Bleue, La Chambre Verte(2013)
La Chambre Grise, La Chambre Jaune, La Chambre Bleue, La Chambre Verte(2013)
自分でも家具をつくってしまうほど、シンプルな家具が大好きな彼の目に映る家具の形は、見ているとなんだかホッとします。

Ukiyo-E / Ukiyo-E Lantern 09, Ukiyo-E Pet Cage(2008)
Ukiyo-E / Ukiyo-E Lantern 09, Ukiyo-E Pet Cage(2008)
フランス人のアーティスト・イン・レジデンス・プログラムの招聘作家として2002年に4ヶ月間京都に滞在したこともあるので、日本の工芸品なども作品に登場します。

Sole and Heel / Bellaria, Xcell, Vibram, Diamond, Good Year, Biltrite(1998)
Sole and Heel / Bellaria, Xcell, Vibram, Diamond, Good Year, Biltrite(1998)
靴のソールとヒールもいろんな形があるんですね。

Blue Polyhedrons(2012)
Blue Polyhedrons(2012)
抽象的な幾何学形のフォルムも曖昧で美しい。

Alite, Cabin, Midjet, Wally Byam's Airstream Clipper(2001)
Alite, Cabin, Midjet, Wally Byam’s Airstream Clipper(2001)
友人から「シンプルなものを描くのが好きだから、キャンプの道具なんてどう?」とたずねられて、キャンプ用品店に出かけカタログを眺めてみると、思ったとおり、インスピレーションがわくものが見つかったそう。確かに、キャンプ道具、キャンピングカー、ハウストレーラーを見ているとなんだかワクワクしますよね。

英国商人が使っていた大きな古いキャビネット。57の引き出しに、ワイズベッカーの収集物が詰まっている。イマジネーションを刺激するため定期的に中を発掘する、彼にとっては遺跡のような場所。(『フィリップ・ワイズベッカー作品集』 522ページより引用)

英国商人が使っていた大きな古いキャビネット。57の引き出しに、ワイズベッカーの収集物が詰まっている。イマジネーションを刺激するため定期的に中を発掘する、彼にとっては遺跡のような場所。(『フィリップ・ワイズベッカー作品集』 522ページより引用)

彼の家にあるインスピレーションの源は、とても興味深く、ユニークで、分類方法も素敵。

作業机の前の壁:制作中の作品、資料、検討中のプロジェクトなどが貼られている。作業机:鉛筆、消しゴム、テープ、カッターなど絵を描くための必要最小限の道具が並ぶ。(『フィリップ・ワイズベッカー作品集』 518ページより引用)

作業机の前の壁:制作中の作品、資料、検討中のプロジェクトなどが貼られている。
作業机:鉛筆、消しゴム、テープ、カッターなど絵を描くための必要最小限の道具が並ぶ。
(『フィリップ・ワイズベッカー作品集』 518ページより引用)

反対側の壁:作品やどこかで見つけたオブジェがレイアウトされている。最後:キッチンユニット。食事を作るのに十分なシンク、コンロ、冷蔵庫、ポット、フライパンが、戸棚のドアの後ろや引き出しの中に隠されている。(『フィリップ・ワイズベッカー作品集』 519ページより引用)

反対側の壁:作品やどこかで見つけたオブジェがレイアウトされている。
最後:キッチンユニット。食事を作るのに十分なシンク、コンロ、冷蔵庫、ポット、フライパンが、戸棚のドアの後ろや引き出しの中に隠されている。
(『フィリップ・ワイズベッカー作品集』 519ページより引用)

ブックケースから作品集を取り出してみると、ワイズベッカーさんらしいシンプルな装丁。
ブックケースから作品集を取り出してみると、ワイズベッカーさんらしいシンプルな装丁。

本書の後半には、パリのアトリエ取材やインスピレーションの源にもなるコレクション、ロングインタビューも充実しています。作品は知っていても、彼がグラフィックデザイナー、インテリアデザイナー、イラストレーターを経験し、今の表現方法に辿り着いたことは知りませんでした。インタビューでは、子ども時代、ニューヨークに移住したときのこと、仕事に悩んだときのことなど、もっとワイズベッカーさんが好きになってしまうであろうエピソードがたくさんありますよ。

何かデザインしたり、ものづくりをする前は、やる気やひらめき、刺激がもらえる作品を見ると、いいアイデアが思い浮かぶことが多いです。本日ご紹介したフィリップ・ワイズベッカーさんの作品集もそんなインスパイアされる大好きな1冊です。

    フィリップ・ワイズベッカー作品集

    フィリップ・ワイズベッカー作品集

    2000年の日本での初個展以来、日本でもファンを拡大してきたフィリップ・ワイズベッカー氏。半世紀にわたりつくり続けてきた作品の中から、2000年以降の作品を約700点収録したまさに集大成といえる作品集です。鉛筆で描かれた独特のパースの作品を中心に、立体作品なども12のカテゴリーに分けて紹介。また、パリのアトリエ取材やインスピレーションの源にもなるコレクション、ロングインタビューも充実しています。アートディレクションは、日本初個展以来の友人である葛西薫氏。

    著者:フィリップ・ワイズベッカー
    仕様:B5判(257×182mm)
    ページ数:568Pages(Full Color)
    装丁:ソフトカバー
    AD: 葛西薫 D: 中本陽子
    ISBN:978-4-7562-4981-4 C3070
    発売元 パイ インターナショナル
    定価 (本体6,800円+税)

    フィリップ・ワイズベッカー(Philippe Weisbecker)

    フィリップ・ワイズベッカー
    (Philippe Weisbecker)

    1942年3月2日セネガルで生まれ、フランスで育つ。現在はパリとバルセロナを拠点に活動するアーティスト。JR東日本の「行くぜ、東北。」や東京駅の駅舎を描いたとらやの小型羊羹のパッケージなど、日本での広告や出版の仕事も多い。JAGDA、NYADC、東京ADCなど、国内外で受賞。

◆関連サイト
フィリップ・ワイズベッカー作品集 / PIE International