リソグラフ
こんにちは、箱庭編集部の森です。
今回お邪魔したのは、東京 武蔵小山のリソグラフスタジオ『Hand Saw Press』です。

リソグラフは、後ほど詳しく説明しますが孔版印刷(こうはんいんさつ)方式のデジタル機器のひとつです。

リソグラフ(Hand Saw Pressにあるリソグラフ作品)

リソグラフ(Hand Saw Pressにあるリソグラフ作品)
ギャラリー展示やブックフェアで、印刷インクの発色が美しく、色と色の重なりが面白い作品だなぁ〜と思うと、リソグラフで制作されていた!ということが多く、リソグラフの存在が気になっていたんです。
ふと振り返ってみると、リソグラフを使用した作品も増えているような…。その輪は日本にも広がりつつありますが、まだまだ海外アーティストが多めな印象です。Instagramでタグを見てみると「#リソグラフ」が1,400件ほどの投稿数に対して、「#risograph」はなんと15万超えの投稿数です。

海外のアーティストが夢中になるリソグラフって、どんな印刷?!こうなったら体験してみるしかない!というわけで、東京のリソグラフスタジオのHand Saw Pressで「リソグラフって何?」「リソグラフがいま注目されている理由」「Hand Saw Pressで出来ること」など根掘り葉掘り聞いてきました。実際にリソグラフを体験した様子と合わせてお届けします。クリエイターの方はもちろんのこと、私のように「リソグラフ」がなんだか気になっていますという方も要チェックです。

海外では身近なリソグラフスタジオを東京に。

リソグラフ
こちらが武蔵小山駅から徒歩6分ほどにある『Hand Saw Press』です。

立ち上げたのは、建築家であり、週末にはジャークチキン販売も行う菅野さん、シェアオフィスの運営と店舗設計や空間構成を仕事にする安藤さん、そして、書籍やCDをリリースしながらヴィーガン食堂を経営する小田さんの3名です。それぞれバックボーンが異なる3名の共通点は、武蔵小山を拠点に活動していたということ、広い作業スペースが欲しかったこと、そして、もともと小田さんが持っていたリソグラフの印刷機を菅野さん、安藤さんがたびたび使用しており、リソグラフの面白さを知っていたこと。この3つだそうです。
約1年前に立ち上げ、これまでの仕事も引き続き行ないながら、リソグラフが使用できる「パブリックスペース」「オルタナティヴスペース」というイメージで運営を行なっているスタジオです。

店内には、インクやリソグラフの作品が並びます。
リソグラフ

リソグラフ

こちらがリソグラフ。Hand Saw Pressには、2台のリソグラフがあります。
リソグラフ
リソグラフは、1980年に誕生した理想科学工業の機器で孔版印刷という方式のデジタル機器です。マスターと呼ばれる薄い紙に穴を開けて版をつくり、その版を使って印刷を行うという方式で、箱庭が以前ワークショップを行なったシルクスクリーンも孔版印刷方式の一つです。

リソグラフは理想科学工業の商品名で、孔版印刷方式のデジタル機器は他にもあったそうですが、いまとなっては孔版印刷方式のデジタル機器=リソグラフとなるまで、世界では浸透しているそうです。世界にはリソグラフを自由に使用できるスタジオがたくさんあり、世界中のリソグラフスタジオを紹介している「Stencil」というサイトに登録されているだけでも、ヨーロッパ圏やアメリカ圏にはそれぞれ約200のスタジオがあります。一方、日本のリソグラフスタジオはまだ3件しか登録されていないんです…!
Hand Saw Pressの立ち上げには、日本で生まれたリソグラフを、日本でもっと知ってもらいたいという想いもあったそうです。

日本で生まれたリソグラフ印刷。海外の人が見出したアートとしての側面が逆輸入。

リソグラフ(Hand Saw Pressでは、世界から集めたリソグラフ印刷の制作物コーナーがあります。)

ではなぜそこまで世界で流通したのか?
その理由の一つとして、コスト面が大きかったとHand Saw Pressの小田さんは話します。
印刷孔版のデジタル機器の多くがシルクで版をつくるのに対し、リソグラフの版は和紙でつくられています。そのおかげで印刷コストを安価にできたのだそうです。

リソグラフは、日本の技術が生み出した優れものなのに、なぜ日本ではあまり見かけないの…?と疑問になりますよね。
「実は日本でも頻繁に使用されてますよ!」とHand Saw Pressの菅野さん。
それは小学校などの教育現場で、30年以上前から導入されており、今も都内の小学校だけで1500台のリソグラフが学校にあるそうです。リソグラフという認識をしていなかっただけで、きっと私が通っていた時にも小学校にあったんですね。知りませんでした!

リソグラフ(Hand Saw Pressでは、最近小学校にあるリソグラフを使って、リソグラフを楽しむワークショップ活動もしています。写真はワークショップで小学生が作った作品。)

「日本と海外では、リソグラフの位置付けが少し異なるんです。日本でのリソグラフは、安価な印刷機として使われていますが、海外では印刷というよりも版画としての位置付けで使われている気がします。」とHand Saw Press 小田さん。

日本でもリソグラフを使用した印刷屋さん(みなさんご存知のレトロ印刷JAMさん)がありますが、海外では入稿して納品をしてもらう印刷屋さんというよりも、アーティスト自身が自由に印刷できるリソグラフスタジオのような形式が多いそうです。

Hand Saw Press 小田さんによると、海外のアーティストは、リソグラフを使い倒し、いかに面白い作品をつくるかを試行錯誤するのだそう。

海外のアーティストたちは、決して高機能とはいえない印刷だからこそ、何度も印刷実験を重ねながら完成される印刷に、リソグラフの印刷という側面ではなく、版画のようなアートとしての価値を見出したようです。今後、日本でもリソグラフスタジオが増えることで、版画のようなアート制作という一面が広まっていくように感じます。

実際にリソグラフを使ってみました!

ここからは実際に、Hand Saw Pressでリソグラフを使用した様子をお届けします。
今回は、一緒に取材をしてくれたイラストレーター・木工作家iriki 渡邉さんの作品をリソグラフで印刷しました。

リソグラフ
irikiさんが用意した版は全部で3つです。リソグラフの場合は1色1版となるので、使用したいカラーごとに版を分ける必要があります。
Irikiさんは、リソグラフならではのインクの重なりが楽しめる作品を作りたいということで、そういう表現ができる少しズレのある版を制作したそうです。

リソグラフ

リソグラフ
Hand Saw Pressでは、現在16色のインクがあり、色を重ねた時にどのように混色されるかはカラーチャートで確認することができます。リソグラフのカラーはすべてが特色。リソグラフならではの色が使えるので、いつもとは違う印刷に仕上がるのが魅力です。
Hand Saw Pressのカラーチャートは120ページあり、色を選ぶだけでも迷ってしまうので、ある程度イメージを固めてからスタジオに行くのがおすすめ!

リソグラフ
リソグラフには、1色刷り(カラードラムが1色しかセットできない1層式)と、2色刷り(カラードラムを2本セットできる2層式)があります。Hand Saw Pressにある2台のリソグラフはどちらも2層式で、1回の印刷で2色を刷ることができます。先ほど決めたカラーのインクドラムを、スタッフの方がリソグラフにセットしてくれます。

リソグラフ
今回は原画をスキャンして版を制作します。
この方法以外に、データを取り込んで、版を制作することもできるので、デジタルで制作したデータでもOKです!

リソグラフ

リソグラフ
ガシャン、ガシャンと出てくる。出てくる。版の制作は少し時間がかかりますが、その後の印刷はかなりの速度で出てきました。
今回は3つの版があったので、まずはテスト印刷でそれぞれの版の重なりを確認します。
[1]の版を刷った1枚と、[2]と[3]の版を同時に刷った1枚の計2枚をテスト印刷しました。

リソグラフ
刷りあがった2枚を透かして見て、自分でどのくらいのズレをつくりたいのかで、ズレを調整することができます。

リソグラフ
位置のほかに、インクの濃さも調整することができます。
自分で調整できるのは、リソグラフスタジオならではですよね。

調整をしたら、本番の印刷です。
リソグラフ
用紙はHand Saw Press内で用意されているものから選ぶこともできますし、持参もOK!(持参の場合は、リソグラフで印刷が可能かどうか、事前にチェックしてくださいね。)

リソグラフ

リソグラフ
刷ってみて「お花の色、変えたいかも…。」そう思ったらその場で実行に移せるのが、リソグラフスタジオの良さ。自分の制作を追求していくことが可能です。

リソグラフ
印象が随分変わりますよね!
オフセット印刷のように、CMYKの4色がセットされているわけではないので、一度に多色カラーの美しい印刷をすることはできないけれど、色の重なりやカスレなど、リソグラフならではの良さがありました。自分で表現できることと、偶然の表現で生み出されることが絶妙なバランスで、アーティストの方々の制作意欲を掻き立てる印刷機だということが、本当によく分かります。

気になったら、Hand Saw Pressに行ってみよう!

リソグラフ
ここまでじっくり読んでくれた方は、リソグラフが気になっている方です!
触れたことがないけど、試してみたいという方もご安心ください。Hand Saw Pressでは、誰でも予約なしに利用できるスタジオの開放日「オープン・デー」やビギナーズ向けのワークショップを定期的に開催しています。まずはこちらに足を運んでみるのがおすすめです。
制作したいイメージが既にあり、これを印刷したい!と固まっている方は、予約利用がおすすめ。菅野さん、安藤さん、小田さんのいずれかがめちゃくちゃ親切に相談に乗ってくれます。
詳しくは、Hand Saw Pressの利用案内ページをご覧くださいね。

    Hand Saw Press
    〒142-0062 東京都品川区小山5-8-18
    Hand Saw Pressのスタジオは、毎日オープンしていません。
    誰でも予約なしでスタジオを利用できる「オープン・デー」と、本格的に印刷・製作する方のための「予約利用」の2つの使い方ができます。
    詳しくは、Hand Saw Pressの利用案内ページをご覧ください。
    WEB:http://handsawpress.com/
    Instagram:@handsawpress/